【ネタバレ】感想 生きものの記録

「生きものの記録」 1955公開

日々目にする原水爆の実験ニュース、放射能の脅威。
その恐怖にとらわれてしまった鋳物工場の会長、中島喜一は
私財をなげうって日本を脱出し、ブラジルへ家族を移住させようとする。

あまりの独断行動に息子の二郎をはじめとした家族は、
暴走を危惧して、彼を準禁治産者にする訴えを起こす。

訴えは認められて、喜一の財産は妻の許可無く散財される心配はなくなった。
しかし、喜一を捉えた恐怖が収まるはずもなく
あらゆる手段を画策して移住を強行しようとする。
「家族が日本を離れたがらないのは、ここに働ける環境があるからだ」
喜一は自らの鋳物工場に火を放つ。

とうとう精神病院に入れられた喜一がたどり着いた心の終着点とは。。。



黒澤明監督のお話ですね。
うーん、実に救いのない話。
人が狂ってしまうのって、本当にその人だけの問題なのかなあ。
この喜一も最初はきちんと頭の切れる「やり手」であったんだけど
裁判に負けて、家族に面と向かって反対されて
さらには倒れて病床に伏していた際に、家族が遺産分配の話しばかり盛り上がってるのを聴いて
どんどん追い込まれちゃったんだろうなあ。

家族のために避難しようとしているはずなのに
家族からはその行為自体を強く拒否されている。
そこを埋め合わせるためには
原水爆の恐怖がいかに切実で避難しなきゃいけない切迫した状況なんだと
自分の中で不安を高めてしまって、ついにはその恐怖に依存してしまった感じ。

というあたりまでは分析できたんだけど、
家族や裁判所はどうすべきだったんだろうねえ。
準禁治産者の訴えを2/3だけみとめます」
「ブラジルへの移住は50%だけ応じます」
みたいに社会の対応が柔軟ならいいんだろうけど。
0か1か、きっちり表すことが要求される最近の社会だと
「漠然とした不安」が人の心を捉えることが増えていってしまうんでしょうな。

【追加】
あ、そういう分野こそ宗教の出番か。
手を合わせる、なにか唱える、
人類が培ってきた心の安寧を図るいろいろなロジック。
カルテックな諸々とかも跋扈してるけど
概ね宗教って癒しの効果があると思うんですよ。